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小笠原唯志監督インタビュー
挑戦の先に見えた成長の手応え

監督小笠原 唯志

2024-25シーズンのWEリーグは、いよいよ残り2試合。ノジマステラ神奈川相模原を率いる小笠原唯志監督は、昨シーズン途中に就任し、攻撃的なスタイルの構築に挑んできた。手探りの中で見えてきた手応えと課題。そして、わずかに残された今シーズンへの覚悟と思いを語った。

「選手たちはその期待に応えてくれた」

2024-25シーズンは昨年9月、WEリーグカップから始まった。初戦でアルビレックス新潟レディースに勝利したが、WEリーグ前半戦は中断前の第11節まで1勝3分け7敗と苦しんだ。

「失点を減らすだけでは、見ている人にとって魅力的なサッカーとは言えません。得点することを最優先に、ゴールに向かう攻撃的な姿勢を打ち出しました。WEリーグカップ初戦の新潟戦で勝つことができて、勢いに乗れるかと思いましたが、前には進めても失点が止まらず、前半戦の失点は23まで増えてしまった。DFは4枚と3枚を併用しましたが、そこまで効果的ではなかったので、最適な形を模索しました」

前半戦の課題を踏まえ、シーズン途中の中断期間には、チームの方向性を明確に定めた。その方針はトレーニングにも反映されたという。

「ガチガチに守備を固めるだけでは先が見えません。攻撃に軸足を置き、ゴールに向かう意識を強め、前からのプレスもかけるようにしました。選手たちはその期待に応えてくれたと思います。練習でもスプリントに対する意欲が高く、しっかり走れるようになってきました。ウチのチームは"クリエイティブ選手"(創造性の豊かな選手)より、"ストロング選手"(明確な武器を持った選手)が多いので、それぞれの持ち味を引き出すことを考えました。両サイドでのドリブル突破、1トップの体を張ったポストプレー、3トップの前からのプレスのように、強みを生かすことを意識したんです。ポゼッションにこだわりすぎず、サイドを起点に10メートル前に進み、時間を作る。仕掛けてダメなら次につなぐ。そうやって前進しようと考えました」

そして、浜田芽来の起用法にも明確な意図があった。現在は、MFやFWではなくDFとして出場している。

「彼女はどちらかというと、対人の強さやスピードに優れた"ストロング選手"です。その特長は彼女ならではのもので、チームのみんなも認めています。本人は『いつ戻してくれるんですか?』と話していましたが、試合を重ねる中で今は手応えをつかんでいると思います。小野(奈菜)選手がケガで不在の今は、浜田選手が適任だと考えています」

「アグレッシブな姿勢を示すことができた」

3月の第12節大宮アルディージャVENTUS戦では、3バックを採用。終了間際の失点により1-2と惜しくも敗れたが、収穫もあった一戦だった。

「今振り返れば、内容自体は良かったと思います。ただ、背後を一発で突かれての失点は、僕自身の甘さでもあり、改善が必要だと感じています。後半戦でやろうとしていたことはしっかり表現できていたと思いますが、決め切れなかったのが課題です。選手にも伝えましたが、あの試合で負けてしまうのが今の実力だと思っています。再開初戦で相手に今シーズン初勝利を与えてしまったのは残念でしたが、攻撃の形には手応えもありました」

続く第13節日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦は雪の中での一戦。強豪相手にもアグレッシブな姿勢を貫き、2-2で引き分け、貴重な勝点1を獲得した。

「物怖じすることなく、大宮戦でできなかったことを出せた試合でした。もしあの試合で大敗していたら、選手たちの気持ちは折れていたかもしれません。今シーズン、ベレーザさん相手に2得点を挙げているのはウチを含めた3チームだけです(他は三菱重工浦和レッズレディースとINAC神戸レオネッサ)。そういった意味でも、アグレッシブな姿勢を示すことができたと思います。ただ、大宮戦と同様に2失点してしまったのは、やはり課題です」

再開後初のホームゲームとなった第14節AC長野パルセイロ・レディース戦では、3-0と快勝。攻守のバランスがかみ合った、理想的な内容だった。

「総合的に力を出し切れた試合でした。得点も取れたし、危ない場面もほとんどなかった。無失点で終えられたのは良かったと思います。長野さんとは相性がいいですし、相手のウィークをうまく突いてしっかり得点につなげることができました。こちらが丁寧にパスを回しすぎていたら、相手にボールを奪われて、もっと押されていたかもしれません」

第15節マイナビ仙台レディース戦は2-0で勝利し、連勝を収めた。ただ、指揮官はその内容に課題も感じていたという。

「勝てたこと自体は良かったと思います。ただ、後半に入ってから少し緩んだような感覚があり、このままでは徐々に悪くなりそうな危機感がありました。前半に出た課題を後半に修正し、もっといい内容にしていくような姿勢が、まだチームには足りていないと感じます。前半のシュート数は5本でしたが、後半は1本。長野戦では17本、ベレーザ戦では11本シュートを打てていたことを考えると、まだ改善の余地は大きいですね」

「追いつく力や勝ち越す力をつけていきたい」

第16節新潟以降、チームの勢いに陰りが見え始める。ちふれASエルフェン埼玉やセレッソ大阪ヤンマーレディースといった上の順位にいるチームとの対戦が続き、3連敗を喫する結果となった。

「新潟戦の後半は、決して悪くはなかったと思います。ただ、両サイドの選手がうまく封じられていました。やはり、対策されてもそれを上回っていく力が必要です」

上位との実力差を感じながら、小笠原監督はチーム全体としての決定力にも目を向けている。

「例えば、INACはカルロタ スアレス選手、成宮(唯)選手、井手(ひなた)選手の3人で23得点。ベレーザには5点以上を取っている選手が4人もいます。他にも、セレッソの矢形(海優)選手や新潟の滝川(結女)選手のように、大事なところで勝負を決められる選手がいる。ウチも大竹(麻友)選手や片山(由菜)選手がさらにゴールを決められるような形をもっと作っていかないといけません。見ている方から攻撃的な部分について『変わってきたね』と言っていただくことも増えましたが、五分の試合をしっかりモノにできるように、追いつく力や勝ち越す力をつけていきたいと思っています」

なかなか勝利を挙げられない時期に、何より気にかけていたのは、スタジアムに足を運んでくれる人たちの存在だった。

「応援してくれた方々に何も届けられなかったことが残念でした。ファン・サポーターの皆さんはもちろん、試合運営を支えてくださっているボランティアの方々のおかげで、選手たちや我々スタッフはいつもサッカーに集中することができています。そういうことをしっかり理解して、どんなときでも努力を惜しまないことが大事だと思っています」

今シーズンも残すところあと2試合。小笠原監督は、最後まで戦い抜く覚悟をにじませる。

「これまで取りこぼしてきたものは、自分たちの力で取り返さないといけません。相手がどこであっても、今の順位や勝点に関係なく、自分たちを奮い立たせて戦うことが大切です。今日も選手同士が声を掛け合いながら、いい雰囲気で練習に取り組んでいました。その姿勢は、きっとスタジアムに来てくださる方々にも伝わるはずです」

ピッチの上で結果を出すこと。それが応援への一番の恩返しだと信じている。

「この環境でサッカーができていることに、日々感謝しています。試合で結果を出して、スタジアムに来てくださった皆さんに少しでも喜んでほしい。そのためにも、自分たち一人ひとりが率先して行動に移していく姿勢が大切です。残りの試合も、全力で取り組んでいきます」

プロフィール

小笠原 唯志
OGASAHARA Tadashi

1969年9月12日生まれ、京都府出身

(文=大西徹・株式会社アトランテ)