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南野亜里沙インタビュー
最後まで、ステラのために

9南野亜里沙

2014年、ノジマステラ神奈川相模原に加入して以来、南野亜里沙はストライカーとしてゴールを追い求めてきた。歓喜に包まれた瞬間があれば、悔しさに沈んだ日もあった。それでも彼女は、自分にできることを模索し、ひたむきに走り続けてきた。

そんな背番号9が、今シーズン限りで現役生活に終止符を打つ。引退を決めるまでに抱えた葛藤や、愛するチームへの深い思い――33歳の南野はそのすべてを、自分の言葉で丁寧に伝えてくれた。

「いい意味で吹っ切れて、迷いがなくなった」

4月4日、南野は今シーズン限りでの現役引退を発表した。2014年に加入してから11年。3月には通算200試合出場も達成し、ステラと歩んだ日々は彼女にとってサッカー人生そのものだった。

「30歳を過ぎた頃から、毎年引退を考えるようになっていました。FWとして得点で結果を残せなくなってきたと感じていて。年齢とともに"背中で見せて引っ張る"ことも難しくなってきた実感がありました。サッカーのトレンドも変化していて、時代の流れを感じながら、世代交代のタイミングなのかなと思うようになり、引退を決めました」

加入当初、ステラはパスサッカーを志向していたが、時代とともに縦の速さやフィジカル重視の戦い方へとシフトしていった。南野はその変化にも順応し、自分にできることを見極めて走り続けてきた。

「どの試合も"これが最後"と思うと、やっぱり感慨深いです。でも、それよりも、"チームの勝利に貢献して終わりたい"という気持ちのほうが大きいです」

そうした思いが届いたかのように、リーグ再開後の3月、南野はストライカーとして再び輝きを見せる。

「最近よく『力みがなくなったね』って言われます。"これが最後"と思うようになって、いい意味で吹っ切れて、迷いがなくなったのかもしれません。今はチームの状態も良くて、連携も取れている。そのおかげで、自分の良さも自然に出せているのかなと思います」

3月1日の大宮アルディージャVENTUS戦は終了間際に失点して敗れたが、8日に雪の中で行われた日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦では2度追いつき、ドローに持ち込んだ。16日のAC長野パルセイロ・レディース戦では2ゴール、22日のマイナビ仙台レディース戦でも1点を決め、勝利に大きく貢献した。

「ギオンスタジアムではなかなか点が取れていなかったので、すごくうれしかったです。複数得点や2試合連続ゴールなんて、何年ぶりだろう? やっぱり、"まだできる"と思われながら引退したいですね」

「みんなでベンチに走っていったあの光景は、今でも忘れられない」

2014年4月、相模原ギオンスタジアムで行われたチャレンジリーグ開幕戦。相手はセレッソ大阪堺レディース。ステラの新戦力としてデビューした南野は、開始1分で先制点、さらに13分にもゴールを奪い、チームに勝利をもたらした。

「まさか、あんなに早く得点できるとは思っていませんでした。FWは結果が求められるので、加入直後にチームの力になれたことはうれしかったですし、気持ちも楽になりました」

キャリアの中でも特に印象に残っているゴールは、同年9月のチャレンジリーグ第16節・アウェイのセレッソ戦だという。当時、チームは昇格争いの真っ只中。スコアレスのまま迎えた81分、南野が値千金のゴールを決める。

「ゴールを決めた瞬間、みんなでベンチに走っていったあの光景は、今でも忘れられません。その年、昇格はできなかったですが、大事な場面で決められたことは、とても印象に残っています」

1年目は22試合で15得点を挙げ、チャレンジリーグ新人賞も受賞。3年目になでしこリーグ2部優勝と1部昇格を果たし、4年目は皇后杯準優勝、5年目はリーグ3位と、チームは着実に力をつけていった。

「順調に見えるかもしれませんが、昇格を逃した年もありましたし、思うようにいかない時期もありました。でも、チームの戦い方はぶれず、ステラファミリーの一体感も変わらなかった。その積み重ねが、3位という結果に結びついたと思います」

そして5年目には、なでしこリーグ1部のベストイレブンにも選ばれた。

「まさか自分が選ばれるとは思っていなかったので、地元の徳島に帰る飛行機を取っていたんです。それを慌ててキャンセルして、表彰式に出席しました。壇上には日本代表クラスの選手ばかりで、本当に緊張しましたね。正直、ちょっと怖かったです(笑)」

「復帰したのに結果が出せないのは本当にしんどかった」

2019年は野田朱美監督、2020年はコロナ禍の中、北野誠監督がチームを指揮した。

「ステラにとって、すごく難しい2年間だったと思います。皇后杯で準優勝し、翌年にはリーグ3位と結果が出ていた中での監督交代は、正直、選手として受け入れるのが難しかった。一方で、野田さんや北野さんも、積み上げられたチームを引き継ぐのは大変だったと思います」

2019年は18試合5得点、2020年は18試合7得点。2021年にはWEリーグの開幕を控え、南野はジェフユナイテッド市原・千葉レディースへの移籍か、残留かで迷っていた。

「それまで移籍経験がなかったので、30歳というタイミングで一度チャレンジしてみたくて、ジェフを選びました。でもうまくいかず、試合にも出られなくなり、引退も考えました。そんなとき、菅野さんがステラに戻ると聞いて、"引退するならステラで"と思い、決意が固まりました」

2022年6月、南野はステラに復帰。22-23シーズンはリーグ戦20試合2得点。23-24シーズンは22試合4得点、カップ戦でも1得点を挙げたが、思うような成績は残せなかった。

「勝てない時期が長くて、自分もなかなか点が取れなかった。復帰したのに結果が出せないのは本当にしんどかったですし、チームにとってもマイナスだったと思います。責任を感じながらプレーしていました」

そして2024年2月、シーズン途中で監督交代が発表される。

「昨年は本当に迷いました。9割くらいは"もう辞めよう"と思っていたくらい。でも、"菅野さんがいないから辞めるの?"と自分に問いかけたとき、無責任だと思ったんです。プロの舞台に立てるのは当たり前じゃないからこそ、もう一年やろうと気持ちを切り替えました」

指揮を執ったのは、小笠原唯志テクニカルダイレクター。監督代行として就任した当初は苦戦が続いたが、チームは少しずつ形を取り戻していった。

「オガさんも途中からチームを託されて大変だったと思います。でも、菅野さんが『オガさんなら大丈夫』と言っていたので、自分も信じていました。"これがステラのサッカーだ"と思える試合ができるようになってきて、引退を控える今、ようやく結果につながってきたことに少しほっとしています」

「どんなときも、前向きな声援を送ってくれて、本当に力になった」

現役生活の終わりが近づく中で、南野は一つひとつのプレーに思いを込めている。

「上位チームとの対戦も控えていて、難しい試合が続くと思います。でも、オガさんの目指すサッカーを、内容と結果の両方で体現していく責任があると思っています。最後の一戦まで、ステラの勝利のために全力を尽くしたいです」

そんな彼女の視線の先にあるのは、チームの未来を担う若い選手たち。その連携の中に、今の南野はやりがいを感じている。

「一愛(笹井一愛)をうまく走らせられたときは、"自分の役割を果たせたな"って感じます(笑)。最近は一愛や琴乃(榊原琴乃)がウイングバックをやっていて、そのポジションをどう生かすかが今のサッカーではとても大事。そのためには、自分のポジションであるシャドーの動きが重要になる。彼女たちが生き生きとプレーできるように、どう動くかをいつも考えています。これからのステラを担っていく選手たちを輝かせることが自分の最後の役割だと思っています」

もちろん、攻撃全体の連携も重要な鍵を握る。

「麻友(大竹麻友)や由菜(片山由菜)との連動はもちろん、ハル(川島はるな)や加奈(藤原加奈)との関係もすごく大事です。前からの守備はFW3枚から始まるので、後ろとの連携も欠かせません。ここ数試合はそのあたりも良くなっていると感じているので、最後までしっかり意識していきたいです」

引退後については、まだ模索中だ。

「指導者は向いていないと思っているので、考えていません。企業に勤める予定で、これからの自分とも向き合っているところです」

そして、これまで共に歩んでくれたファン・サポーターに向けて、感謝の思いを語った。

「どんなときも前向きな声援を送り続けてくれて、時には気さくに声をかけてくれたりして、本当に力になっていました。たくさん背中を押してもらいましたし、感謝の気持ちでいっぱいです。これまで支えてくださった皆さんに、残りの試合でしっかり結果を出して恩返ししたいと思っています。ぜひスタジアムに来て、最後のプレーを見届けてもらえたらうれしいです。たくさんの方にお会いできるのを楽しみにしています」

プロフィール

南野 亜里沙
MINAMINO Arisa

1991年11月26日生まれ、徳島県板野郡出身
FCプリマヴェーラ - 板野プリマヴェーラ - プルミエール徳島SC - 岡山県作陽高 - 関東学園大 - ノジマステラ神奈川相模原(2014~2020シーズン) - ジェフユナイテッド市原・千葉レディース - ノジマステラ神奈川相模原(2022-23シーズン~)

(文=大西徹・株式会社アトランテ)