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久野吹雪インタビュー
7年間の集大成として

1久野吹雪

「今までの経験を生かして、守備の要となり、チームの勝利に貢献したい」。そんな強い思いを胸に、2018年、久野吹雪はノジマステラ神奈川相模原の一員となった。走り続け、支え続け、守り抜いた7年間には、苦しさも喜びもすべてが刻まれている。背番号1は今シーズン限りでチームに別れを告げることになった。これまでの歩みを、あらためて振り返る。

「継続して出場したことで、すごく成長できた」

2018年、28歳だった久野は、伊賀フットボールクラブくノ一(現・伊賀FCくノ一三重)からステラへ移籍。当時、ステラはなでしこリーグ1部に所属していた。

「どうしても入りたくて、菅野(将晃)さんに『お願いします』と伝えました。受け入れてもらえたときは本当にうれしくて、"絶対に結果を出そう"と心に誓いました」

新たな環境での1年目は、戸惑いを抱えながらも、全力で走り抜けたという。

「"キーパー練習してたかな?"って思うくらい、とにかく走り続けた一年でした(笑)。それでも『今年は楽だった』という選手もいて、信じられなかったですね(笑)。すでに形ができていたチームに飛び込んだので、とにかく合わせなきゃという気持ちが強かったです」

リーグ戦では18試合に出場し、チームは3位でシーズンを終えている。

「守備では、自分がボールをキャッチしきれずにはじいたときも、誰かがカバーしてくれて、みんなで体を張って守っていました。試合では何度もシュートを浴びましたが、最後まで粘り強く守れたのは、日々の積み重ねがあったからだと思います。前線の選手たちがしっかり点を決めてくれて、勝ち切る展開が多かった印象です」

その後、2019年は野田朱美監督、2020年は北野誠監督のもとでプレー。2019年以降、久野は背番号1を背負い続けた。

「その頃から、キーパー練習に技術的なメニューが加わるようになりました。アカデミーとの交流も増え、陽菜(本多陽菜)や有紗(遠藤有紗)、有波(岩崎有波)も夏休み中などは一緒に練習をしていたと思います。若い頃は、1シーズンを通して試合に出る機会が少なく、ケガにも悩まされ、波がありました。でも、ここで継続して出場したことで、すごく成長できたと感じています」

「そばに誰かがいてくれるだけで、安心感がまったく違う」

2021-22シーズンの開幕前、ステラのゴールキーパー陣は久野と池尻凪沙の2人で構成されていた。そんな中、思いがけない出来事が起きる。

「開幕前(2021年5月)にナギ(池尻)が骨折してしまって、それからは1人でキーパー練習を続ける日々が始まりました。"絶対にケガをしてはいけない"という緊張感もあって、思い切ったプレーができなくなりそうで......。もう一人いてくれたらって、何度も思いました」

ゴールキーパーが1人だけという状況での練習は、想像以上に大変だったという。

「シュート練習で決められすぎて、正直イライラした日もありました(笑)。次々と来るシュートに対して、全てに100パーセントで止めに行くのは無理があるので。それを何周もしていたと考えると、思い出すだけで本当にきつかったです。その後(7月に)根本(望央)が加入してくれて、アカデミーの選手たちとも長期休みの期間は一緒に練習をして。やっぱり、そばに誰かがいてくれるだけで、一緒に誰かと練習ができるだけで、安心感がまったく違いました」

そして2021年9月、WEリーグが開幕。初戦の相手はマイナビ仙台レディース。シュート数はステラが2本、仙台が10本という苦しい展開だったが、久野はフル出場を果たし、スコアレスドローに持ち込んだ。

「あの試合は今でもはっきり覚えています。みんなで必死に守り、耐え抜いた90分でした。攻め込まれる時間が長かった分、最後まで守り切れたことがすごく印象に残っています」

「"引っ張る存在は大事だな"と感じた」

WEリーグ2年目となった2022-23シーズン、ステラには菅野監督が復帰。最初の勝利は10月、アウェイで行われたサンフレッチェ広島レジーナ戦だった。

このシーズン、久野はリーグ戦全20試合に出場。チームが挙げた5勝すべてでゴールを守った。

「そのとき、30歳以上の選手が6人いました。南野亜里沙、浜田遥、杉田亜未、小林海青、石田みなみ、そして私です。みんなで必死に頑張っていた姿がとても印象に残っています。近くに気持ちを分かち合える仲間がいるだけで、ものすごく心強かった。背中で引っ張ってくれる人、言葉で支えてくれる人、チームを盛り上げてくれる人がいて、若い選手たちも頑張っていたと思います。"引っ張る存在は大事だな"とあらためて感じました」

一方で、チームは厳しい戦いを強いられ、2023年4月の第14節から6月の第22節まで、9試合連続で勝利が遠のく苦しい時期が続いた。そんな中、久野は大きな決断をする。

「もともと膝に痛みを抱えていて、ずっと病院で痛み止めの注射を打ちながらプレーしていました。でも、痛みは強いままで......、"治せるものなら治したい。どうにかならないか"と何度も相談を重ねた結果、シーズンが終わったタイミングで手術を受けることにしました」

「"次こそは"という気持ちを保ち続けることができた」

手術とリハビリを経て迎えたWEリーグ3年目。2023年8月に開幕したWEリーグカップには間に合わなかったものの、11月のWEリーグ開幕戦には出場できるまでに回復した。膝の痛みも、手術を経て大きく軽減されたという。

このシーズン、久野はキャプテンを務めることになった。

「シーズン最初のミーティングの30分前に『今年、キャプテンお願いね』って言われたんです。菅野さんに頼まれたら、断れませんよね。ただ、勝てない時期やケガも重なって、すごく苦しいシーズンになりました」

開幕から白星に恵まれず、2023年11月の第1節から2024年4月の第16節まで、16試合連続で勝利を逃す時期が続いた。

「思うように結果が出ず、途中で監督が代わり、戦い方も変化していく中で、チーム全体が下を向いてしまうこともありました。でも、毎試合のように声援を送ってくれるサポーターの存在に、本当に救われました。前向きな言葉に背中を押され、"次こそは"という気持ちを保ち続けることができました」

3月からは小笠原唯志テクニカルダイレクターが監督代行を務めた。

「キャプテンを任されたのは初めてだったので、若い選手たちをどう引っ張ればいいのか、すごく悩みました。オガさん(小笠原監督)に相談したこともあります。プロとしてそれぞれが自分で考えて動くべきだという思いもある一方で、キャプテンとして言葉をどうかければいいのか、本当に難しかったです」

シーズン後半には右肩を痛めながらも、5月の第21節・ちふれASエルフェン埼玉戦(2-1)と第22節・AC長野パルセイロ・レディース戦(3-2)に出場。ラスト2試合で連勝を収めた。

「うれしかったですね。順位はすでに確定していましたが、最後に勝って締めくくれたことは、次のシーズンにつながる大きな意味を持っていたと思います。ただ、どうしても失点をしてしまったことだけは今でも引っかかっています。無失点で終えたかったですね」

「7年間の集大成として、成長した姿を見せたい」

WEリーグ4年目となる2024-25シーズンも、いよいよ終盤を迎えている。久野は現在、高橋拓輝GKコーチ、GKアドバイザーの前田隆司氏と共に、日々のトレーニングに取り組んでいる。

「今シーズンの初めは、週に2〜3日、前田さんに基礎からしっかりと強度の高い指導をしていただき、すごく充実した練習ができました。高橋コーチは直近まで大学で選手をしていたので、週末の試合に向けて段階を踏んだトレーニングを組んでくれます。私もナギも有波も、それぞれが成長できていると思います」

同じゴールキーパーとして、共に競い合ってきた二人についても、久野は言葉を続ける。

「ナギは身体能力が抜群で、スピードやバネもある上に、コーチングもしっかりできる選手。有波は体格に恵まれていて、どっしりと構えることができ、これから経験を重ねていけば、さらにいい選手になると思います。二人とも大きな魅力を持っているので、自分も負けないように頑張りたいです」

4月13日、クラブから今シーズン限りでの退団が正式に発表された。

「このチームで7年間プレーできたことは、私にとってかけがえのない財産です。今は、もう一度新たな環境で挑戦したいという気持ちが強くなっています。正直、引退という選択肢が頭をよぎったこともありました。でも、前田コーチや高橋コーチとの強度の高い練習を通して、"まだまだできる"と感じることができました」

すでに退団は決まっているが、次の所属先はまだ決まっていない。それでも、これまで支えてくれた人たちへの感謝の思いは変わらない。

「まずは目の前の試合に集中して、しっかりと戦いたいです。7年間の集大成として、これまで積み上げてきたものをピッチで表現し、ベテランらしく安定したプレーを届けたい。これまで本当にたくさんの応援をありがとうございました。最後の最後まで、気持ちを込めて戦い抜きます」

プロフィール

久野 吹雪
KUNO Fubuki

1989年12月27日生まれ、神奈川県藤沢市出身
本町SC - 新林レディース - 横須賀シーガルズ - 武蔵丘短大CIENCIA - INAC神戸レオネッサ - 伊賀フットボールクラブくノ一三重 - ノジマステラ神奈川相模原(2018シーズン~)

(文=大西徹・株式会社アトランテ)